月下星群 〜孤高の昴

    “今は、聞かない”

       *原作のネタバレを含む作品です。
        それと、書いた人の希望的妄想色も相当に濃い出来です。
        そういう傾向の作品には接したくないという方は、
        自己判断でお避け下さい。
  


ポートガス・D・エースの処刑を大々的に公表しておきながら、
それへの事後報告となる報道は、結果、一切なされなかった。
それどころではない大事件が、海軍本部で勃発したからで、
その“大きな騒乱”にしても、
どこまで公正な発表がなされたものやら。
現に、
インペルダウンがたった一人のルーキーに掻き回された挙句、
特級レベルの囚人を
多数解き放つこととなったのは伏せられたままだ。
だがそれは、白ひげ海賊団側へついた者らにも言えることであり、
間近に身を置き、その耳目で事実を見聞きした者ほど、
そのあまりの重さにか、口を噤んでいる始末。
起きた真実は一つかもしれないが、
どんな立場でどっから見たか。
語る者によって、筋書きは大きく違
(たが)ってしまうものさねと、
サニー号を率いて躍り込んで来てくれたレイリー老も、
口許引き上げ、苦く苦く笑うばかり…。




    ◇◇◇



あれほど荒れてたのが嘘みたいな、
今は静かなばかりの海と空とで。
大きな大きな“闘気”や“覇気”が、
様々な思惑抱いた野望や何やが。
果てさえ見えぬこの海を、
果てがあるのかどうかも知れぬこの空を、
そりゃあもう、不安定にも揺さぶってた。
海や空に比べれば、
比較にもならないほど ちっぽけなはずな人間の。
それも形さえ無い“気概”ってのが、
嵐を呼ぶほど、荒波を起こすほどの力となって荒れ狂ってて。

  少なくとも 当人の人と成りなんて一番知らない奴らが、
  そんなことはどうでもいいと、
  本当に潰したい奴をおびき出すのの
  “餌”にするために仕立てた処刑で。

そんなとんでもないことさえ実現させてしまえる“正義”ってどうよと、
肩を竦める誰かの声へ。
少なくとも世間の人たちへ、それが矛盾なことに映らぬよう、
連中が地道に積み上げていたのが“法”なんだろうさと、
別な誰かが、乾いた声で応じてたけれど。


  そんなもんは、もう、どうでもいいかな、と


今は静かな波の音がさわさわと響き、
風に帆が叩かれる“風の太鼓”がたぱたぱ鳴る中。
もぐり込んだ温みの中で、ぼんやりと思う。

  「……ルフィ?」

少なくともあの現場にいたし、
当事者というか、関係者ではあったみたいだけど。
あの大きな大きな修羅場のただ中で、
逃げ延びさせよとする旗印として、
皆してあの小僧を補佐しろと構えてくれて。
ああまで頼もしい顔触れはなかったろうに、
相手もまた、海軍きっての凄いのばっか揃えてやがって。
頭数とか実力とか、気合いとかじゃあ全然負けてはなかったけど、
それでも全身がびりびりしてて、
一瞬でも立ち止まっちゃあいけないことずくめで。
ああ、そんな喧噪の中にいたのが嘘みたいだ。

  「エースは、まだ何か言える状態じゃなくてな。」
  「……おお。」

エースが考え込んでるのはしょうがない。
他の誰にも代われない、
エースの立場でないとっていう、大切な物思いだから。

  自分が海軍へ捕まったことが、この大騒動の引き金になったとか。
  そも、あの黒髭に出し抜かれた不甲斐なさとか。
  それと…もう取り戻せない色んな“結果”とか。

絆が強かったからこそ、
信念が堅かったからこそ、
器の大きな“漢”だったからこそ、
あんな流れになったのも致し方がないって、
そこが一番に歯痒い口惜しい辛いのだろうし。
引き摺ってちゃいかんというのも、
前向いて歩き出さにゃあいけないってことも、
重々判ってるんだろうけど。
今はまだ、
そう簡単にはその胸の波立ちが収まらない彼なのだろと…。


  “…………やべ、まぶたが上がんねぇ。”


何かこう、何かを目指してないときにあれこれ考えるっていうのは、
もともと得意じゃあなかったってのに。
色んなことが次々に起こったのを、
しゃにむになって追ったり追われたりしてたからだろか。

  頭が たぷたぷになるまで水吸った綿みたいで。

インペルダウンの中を駆け降りてた初っ端から、
前へ前へ、ずっと駆け続けだったのが、やっと終わったからだろか。
力が尽きかけても それでもまだだと、どっかから威勢を絞り出し。
転びそうになんのを踏みつけ、逆にバネにするよな調子で、
ただただ前へと駆け続けてて。

  真摯に願えば一途に望めば、何でも叶うとは思わない。
  どれほどの全力懸けて当たっても、想いが届かないときはある。

そんなこたぁ知ってるが、
それでも…何にもしないじゃいられなかったし。
自分の望みと皆の望みはかぶってたが、
肝心な兄
(エース)の望みとは、
きっとどっかで同じじゃあなかったらしいってのも、
薄々判っちゃいたけれど。

  エースがその“大切”を無くしたくなかったのに負けないくらいに、
  俺だってエースんことが大切だったんだもの。

そういう色んなグダグダとかブツブツとか、
言ったって始まらないことと、
そうだってののもどかしさを腹の底に感じつつ。
体じゅうがだるくて重たいのを言い訳に、
久方ぶりにもぐり込んだお膝の持ち主が、
大事なところでは割と寡黙な性分なのへと甘えることにし。
一瞬だって油断出来なかった緊迫とか、
辛くとも目を逸らせなかった惨状とか、
見なかったことになんて出来やしなかった辛い現実とか。

  今だけ、
  思い出さないでいいよって。

言いたくなけりゃ そうしてなって、
黙っててくれる。
何も訊かないその代わり、
腕の中に居なと、どこへも行くなと引き留めるカッコで、
受け止めててくれる。

  ずっとどっかの遠くへ離れていたんだのに。
  その間、頭ン中でさえ探しもしなかったのに。

ホントなら一番優先しなきゃな仲間なのにな。
こんな船長じゃあ不味いのかな。
俺があのくま公に飛ばされたみたいな、同んなじ目に遭ってたんなら、
そんな皆が顔を揃えてくれて、しかも迎えに来てくれたのって、
ホントは凄んげぇ奇跡なんだろにな。
ゴメンな、今は何か眠い。
こっちから言えることはまだ何にもなくて。
そのくせ、一杯一杯訊きたいことあんのにな。
ナミやサンジが、タコのハチやレイリーのおっさんと、
何かいろいろ話してるのが聞こえるけど。
今はそれを聞ける余裕もなくて。
堅い胸とか太っとい腕とかにくるまれて。
何にも言わなくていいからと、
何も言わないのにそう言ってるような、
そんな抱っこに安堵して。

  ちっとだけ、寝るかんな

そんな短い一言さえ言えぬまま、
すりりとほお擦りしたのを最後に、
ぱふりと沈没した船長を、
しょうがねぇなと見下ろした誰かさん。

  “再会出来た、それだけで御の字だ。”

何があったかは おいおいと話してやれようし、
無事ならそれでいいってことで。
ここのクルーはみんな、
覚悟あっての この海にいるのではあるけれど。
それでも…気に入ってる奴が傷ついてたり困ってたり、
そういうのへ立ち会うのは しばらくは沢山だから。
やっとのこと、間近へまで舞い戻って来たお互いを、
生きてるんだって温みや重みを、
抱え込んでの堪能したって、罰は当たるまいよと。

  「……………。」

あれほど荒れてたのが嘘みたいな、
今は静かなばかりの海と空とで。
2つの青が静かに広がるその真ん中で、
嵐のただ中にいたらしき つむじ風を抱いたまま。
こちらさんもこちらさんなりに大変だった嵐、
今は思い出したくもないとばかり。
まぶたを降ろして、
そのまま寝入ってしまった、剣豪だったりするのだった。





   〜Fine〜  2010.02.10.


  *カウンター 341、000 hit リクエスト
    キャラメル・ショコラ様 『ゾロルの再会、腕 輪っかを堪能vv』


  *ううう、すいません。
   出来る限りぼやかしたつもりではありますが、
   何てのか、私の独断と妄想による、
   ご都合偏りすぎな顛末にしちゃってます。
   (どさまぎでレイリーさんも同乗したまま突入してますし。)
   本誌がいよいよの、
   修羅場の正念場の土壇場だってのは存じておりますが、
   何てのか、こうだったらなぁという感じ、雰囲気だけ、
   フライングならこその勝手をさせていただきました。
   好きにしちゃって、各方面へすみません。


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